店がなくなったあと、そこに何があったのか、思い出せなくなることがある。
ついこのあいだまで、当たり前のようにそこにあったはずなのに。
なぜだろう。
調べてみると、人は建物や看板などの目印にして、街の風景を記憶しているらしい。
いつも目にしていた店が更地になったり、別の建物に変わったりすると、かつての風景を思い出すきっかけも失われてしまう。
そして、新しい景色に慣れていくうちに、以前の風景は少しずつ記憶の奥へと沈んでいく。
江戸の街も、明治の街も、大正や昭和の街も、そうして生まれては消えていった。その積み重ねの先に、今の街がある。
街は生まれ変わるのが得意なのだ。
そう考えると、今歩いているこの道にも、誰かにとって懐かしい風景があったのだろう。
ところで、あの角にあった店は何の店だっただろう。
思い出せない。
まあ、いいか。
脳みそに空き容量ができたのだ。
……そういうことにしておこう。

