さて、次はどこに行こうかなと調べていたところ、近くに「貝類館」なるところがあるとか。
サイトを見てみると、1999年に開館した関西唯一の貝類専門博物館らしく、日本の貝類学の礎を築いた黒田徳米氏の資料を核とした約10万点の標本を所蔵しているという。
え、貝類ってまた地味だな……。
普段はシジミやサザエなど、食べるぐらいでしか触れる機会がない「貝類」。
しかし考えてみると、たしかに深海から浅瀬、川や湖、しいては陸上にまで、あらゆるところに貝類は生息しているのだ。
にもかかわらず、私は貝類について何も知らず、大した興味も向けずに生きてきた。
これはもったいない……のかもしれない!
貝類館に行って、こんなオールマイティな適応力を持った生き物について学んでみよう!
というわけで、2026年夏、西宮市にある「貝類館」を訪ねた。

JR西宮駅からマリナパ-ク行きのバスに揺られて、約20分。
そばにはヨットハーバーもあり、海風を感じながら遊歩道を散策もできる。
海風が心地良く、気軽に「ザ・夏」を味わえる絶好のロケーションなので、ササっと夏を感じたい方もぜひどうぞ。
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さっそく、貝類館の中をご案内しよう。
館内は、ワンフロアの広々したワンルーム空間となっている。
驚いたのは、その充実度だ。地元の貝に加え、大西洋や太平洋、さらには世界の陸地に潜む貝まで、なんと約2,000種・5,000点もの世界の貝類が常設展示されている。
しかも観覧料は、一般(高校生以上)が200円、小・中学生は100円(安い!)。
私が行った日は平日だったので、博物館の中はほぼ貸切状態だった。
エントランスを入ると、まるで海の中のようなブルーに包まれた空間が広がり、真ん中に巨大な「オオシャコガイ」の殻がドンと鎮座している。

重さはなんと約160kg。
もはや貝というよりは、ちょっとした岩石の佇まいだ。
ちなみに、来館特典として小さな可愛い貝殻のプレゼントをもらった。
複数の種類から選べるうえ、貝の名前とどこで採れたかが書かれた紙も一緒に入っている。最後にアンケートに答えたら、さらにもう1つもらえた。
もらった貝は、今も部屋のパソコン横にちょこんと飾っている。何度見ても可愛い!
展示は、「西宮の自然と海岸」コーナーから始まり、「貝の起源や進化」、「大西洋や太平洋、陸地など生息地別に世界中の貝」などがパネルとともにわかりやすく展示されている。
貝類は世界に約10万種、日本には約8000種が住んでおり、その種類の多さは昆虫やエビ・カニ、クモ類などの節足動物(約100万種)に次ぐのだとか。
まじか!想像以上の多さである!
なかでも南北に長い島国である日本は、周辺海域に暖流と寒流が流れ込むため、それぞれに適応したさまざまな貝類が生息しているらしい。
こうした背景もあって、日本では昔から貝をただ食べるだけでなく、ヤカン(以下の写真)やスプーンなどの生活道具として再利用していたようである。

便利だな、貝……。
「旨い!綺麗!火に強い!」と三拍子揃った貝、そりゃあ昔の人だってリメイクしたくなるわけだ。
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もちろん、世界の貝類エリアも充実している。
ずらりと並んだ、一見すると地味なチェスト。その引き出しを開けた私は思わず、「おお!」と声が出た。
そこには、世界中の海や陸から集められた夥しい数の貝たちが、まるでお菓子の詰め合わせのように、整然と敷き詰められているのだ。

コレクターの書斎に忍び込んだような感じで、わくわくする!
なかでも特に目を引いたのが、「イモガイ」だ。
芋のようにコロンとした見た目の可愛さに騙されてはいけない。毒針で魚を麻痺させて丸呑みするイモガイは、「海の暗殺者」という異名をもつ世界で最も危険な貝なのだ。
特に「アンボイナガイ」という種類のイモガイは、別名「ハブガイ」や「一晩貝(ひとばんがい)」とも呼ばれ、人間すら死に至らしめる猛毒を持つ。
「綺麗なバラには棘がある」とはよく言ったものだが、「綺麗な貝には即死級の毒矢がある」のが自然界の現実らしい(沖縄・奄美地方にも多く生息しているので、海で見つけてもぜったいに素手で触らないで)。
また貝類館では、ガラス越しに見るだけでなく、本物の重みやザラザラした触り心地を五感で楽しめるコーナーもある。

となれば当然、私がやることはひとつだ。
周囲に不審がられない程度の手早さで貝を掴むやいなや、すかさず耳へと押し当てた。
昭和から平成初期あたりに生まれたひとであれば、誰もが一度は耳にしたことがある、令和の若者にはおそらく通じないであろう都市伝説――「大きな貝殻を耳に当てると、波の音が聞こえる」という、あれだ。
じっと息をひそめると、聞こえた。確かに聞こえたのである。ザザーン、ザザーンと、遠く切なく押し寄せる波音が!
しかし後日、鼻息荒くこの話をしたら、あれはなんと換気扇やクーラーの音など、身の回りのかすかな環境ノイズなのだとか。なんということだ、これまで一途に信じ、ロマンさえも感じていたのに……。
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最後に、館内中央付近には国内の生きたカタツムリたちがいくつかのケージに分かれて、つつましく暮らすコーナーもある。

関西でよく見かけるお馴染みの面々から、北米産のコハクガイ、さらには一見カタツムリには見えない細長く巻いたナミコギセルやらが見やすく展示されている。
なんでもカタツムリには左巻きと右巻きがあり、面白いことに西日本は右巻きが、東日本は左巻きが多いという。
理由はいまだに謎に包まれているらしい。が、ただひとつ確かなのは、巻き方が違うと生殖器の位置が左右逆になるため、彼らはどうしても交尾ができないということだ。
もしも右巻きカタツムリと左巻きカタツムリが出会ってしまったら、そこには決して報われない、すれ違いの恋が始まってしまうのだろうか…。なんだか胸の奥がちりりと切なくなる。
この一角は、そんな行き場のない悲恋の気配が満ちている、どこか愛おしい場所だった。

西宮の貝類館では、週末や夏休みを中心に、子供から大人まで楽しめるユニークなワークショップや実習、本格的なセミナーを多数開催している。
いつもとは違う特別な体験で、あなたも『自分の殻』を破ってみては?


