2026年7月中旬、香川の高松城跡(またの名を玉藻城)へ行った。
昔から行きたくてたまらなかった高松城なので、今回は前編・後編に分けてみる。
とはいえ、あまり聞いたことのない城だな……と思われる方もいるだろう。日本三大水城のひとつだが、なにせ天守が現存しておらず、実戦の経験もない城なのだ。しかし、侮ることなかれ。
初代城主は、豊臣秀吉の家臣・生駒親正。
縄張り(設計)はあの築城の名手・黒田官兵衛とも藤堂高虎とも、細川忠興ともいわれているのである。———正直この3名の名前を聞くだけでも、私のような日本史&石垣好きの者には、よだれもんである。
そして瀬戸内の海水を外・中・内掘りに引き込んだその構えは、まさにベスト・オブ・海城!
生駒家の後は、なんと徳川家康の孫で、徳川光圀(水戸黄門でお馴染み!)の兄にあたる、松平頼重。もうもう、徳川の血をガッツリ引いた、血筋最強のウルトラVIP!
いや、失敬。ちょっと落ち着かなければ(深呼吸)。
あらためて高松城は、瀬戸内海の海に面して築かれた海城で、城内からは直接海に出れる門も整備されるほど、海を効果的に利用していた城である。
歴代城主は生駒四代と松平十一代という2氏だけで構成されており、これは全国のお城の歴史の中でも非常に珍しいとか。
普段の私は「暑い日に、わざわざ暑いところに行ってどうするんだ」などと抜かす軟弱者だが、今回ばかりは内なる歴史オタクの血が騒いで止められない。
それでは、城内を見ていこう。
——————————————————

入園料は、一般(18歳以上)は300円。非常にリーズナブルだが、城内はあまり屋根がないため、夏場に行くなら帽子と日傘、タオルは必須である。
西入口から二の丸跡に入り、のんびりと歩を進める。まず私の目を釘付けにしたのは、石垣でも櫓でもなく、堀の水面だった。
見どころ①:堀を優雅に泳ぐ主役たち
城といえば、堀に優雅に浮かぶ鯉がお約束だ。しかし、ここ高松城の堀を覗き込んで私はつい声が出た。
バシャバシャと猛烈な勢いで泳いでいるのは、なんと黒鯛(チヌ)や真鯛、ベラである。
———って全然優雅じゃない!!
さすが、今なお堀の水が海水100%の海城である。淡水魚ののどかな風情とは違う、海の魚特有のギラギラした感じがそこにはあった。聞くと、ほかにもスズキやフグ、イカなども来るらしい。
おまけに「鯛の餌」が売られており、鯛に餌をあげれば、その人の大願も叶う『鯛願城就』という直球の駄洒落看板まである。

餌を撒くと、堀はさながら「養殖場」のよう。狂ったように餌を奪い合う鯛の貪欲さに、テンションMAXに!あまりの光景に、真夏の暑さが一瞬だけ吹き飛んだ。
ちなみに、高松城では堀を小舟で巡る「城舟体験」もある。酷暑を理由に涙をのんで断念したが、正直これも乗りたかった。無念である。

見どころ②:孤島の本丸と、幻をのせる「天守台」
天守台跡がある本丸へ向かうには、四方を水堀に囲まれた「鞘橋(さやばし)」という屋根付きの木造橋を渡るしかない。
有事の際は、この橋を落とすことで本丸だけを守るという戦略があったという。「逃げ道を断つ」という力技の防衛策に、当時の人々の潔さと、ほんの少しの狂気(と不安)を覚えてしまう。
橋を渡った先で待ち構える天守台は、平成の解体修理を経て、見事なシルエットを取り戻していた。

階段を上り、展望デッキへ立つ。驚くほど視界が開け、海風が非常に心地良い。
明治時代に建物は取り壊され、今は土台の石垣しか残っていない。しかしここには、かつて三重五階(3重4階+地下1階)の壮麗な天守がそびえ立ち、海から見るとまるで水面に浮かんでいるように見えたらしいのだ。
———何もない空間に幻を見る。これぞ歴史オタクの妄想力の本領発揮である。
見どころ③:職人の意地がグラデーションする、石垣の進化
天守台の興奮冷めやらぬまま城内を歩くと、場所によってあからさまに「石垣の積み方」が違うことに気づく。
高松城には初期の生駒家と、その後の高松松平家という、それぞれの時代に築かれた石垣が同居している。
いずれも大型の石材は花崗岩、小型のものは安山岩や凝灰岩が用いられているが、その加工技術の進化が凄まじい。
生駒家時代の多くは、自然の石をほとんど加工せずにそのまま積んだ「野面積み(のづらづみ)」。

———このゴツゴツとした感じ、石の力強さや生命力を感じずにはいられない!
それから時代が進むと、全体に加工した石材(割石、切石)を多用した「打ち込み接ぎ」や「切り込み接ぎ」が主体となっていく。
———見よ!この隙間のなさを!丁寧に切り揃えて積み重ねるこの生真面目さも、見ていて惚れ惚れしてしまう。

きっと「もっと高く、もっと綺麗に、もっと頑丈に!」と職人たちは必死でアップデートしていったのだろう。
ちなみに、ここで使われている花崗岩の多くは、現代で「日本一高価な石」と言われる地元の名石・庵治石(あじいし)。別名「花崗岩のダイヤモンド」と呼ばれるほどの硬さと美しさをもつ超一級品である。
初期の野面からのちの切石にいたるまで、時代を超えてこの最高峰の石を意地と技術で組み上げていった職人たち。
彼らの熱い姿を思うと、愛おしさで胸がヒリヒリしてくる。
———と、すっかり脳内タイムスリップを満喫して疲れたので、ひと休み。
しかし高松城の見どころはまだ語り足りない。むしろ、ここからが本番なのだ。
読めば現地へ弾丸旅をしたくなる、めくるめく高松城のお話をどうぞ後編も堪能していただければ嬉しい。
———ちなみに「花崗岩のダイヤモンド」こと庵治石ですが、現代では職人の手でスタイリッシュなコースターや雑貨に姿を変えています。さすがに墓石は買えませんが、これならデスクに職人の意地を迎えられる……!
石垣好きの同志はぜひ手元で愛でてみてください。



